記憶を焼き付けて廻る
幾度も幾度も果てもなく
苦痛と恨みだけが詰まったこの身体に小さなぼんやりとした光を抱いて
躯は朽ちたとて

“何度も巡り会う”





自分で言うのも癪だが、俺は凡庸な人間だ。
見た目も普通で、何をしても平均以下。
そんな自分がドン・ボンゴレなんてやっているのもボンゴレの血が僅かばかり混じっているせいだと思っている。 (リボーンに言わせると家庭教師の先生様のおかげらしい。)
しかし、ボンゴレだの超直感だの偉そうなことを言っても、実際に普段の生活で役にたつことなどない。
現に今、目の前に立つ人間にどうしていいかわからずに眉尻を下げてオロオロするばかりで情けないったらない。
人形のように表情をなくしてぼんやりとこちらを見下ろす男は、漆黒に近い青色の髪に赤と青のオッドアイ。
ノックも無しに黙って部屋に入ったかと思えばツカツカと目の前に迫り、放った言葉は、

「きみをころして、ぼくもしにたい。」

と、物騒極まりないものだった。

妙に幼く、平仮名ばかりの発音。
そもそも彼は、言動に些か幼さを残した人間だった。
冷静沈着な態度で、その内面は、気に入らなければ潰せ、消してしまえと実に直情的。

「一体どうしたって言うんだよ。」

握っていたペンを机に置き、下から覗き込むように彼に視線を向ける。
白昼の明るい部屋で、呟いた後黙り込んだ彼だけが、まるで幻のように揺れていた。
ゆらゆらと輪郭が歪み、そこに存在するのがやっとのようだった。

「骸?」

問いかけた声にぴくりと睫が震えた。 少し怯えたようにちらりとこちらを見て、再び目を逸らす。

「めぐるたびに、」

絞りだすように言葉を零す。 けれど、言葉は床に落ち、消えた。

「せかいをおわらせたい」

 「すべてをはかいしたい」

  「ころしたい」

   「しにたい」

“骸様!” クロームの悲鳴がきこえた。
頭の中に直接響く悲痛な叫びだ。 ただひたすらに青年の名を呼ぶ。

「もうたくさんだ。」

首に指がかけられる。 力が込められた指先が僅かに震えていた。

「消えてしまいたいの?」

「ちがう」

「俺を殺したい?」

「ちがう!」

頭を振る青年の長い後ろ髪が揺れる。ふわり、と光を受け、深い青が弾ける。

「君を手に入れたい。身体ごと魂を食らって、永劫の輪廻に引きずり込んでやりたい。」

「この身体をお前にやったとしても、例えば、俺がお前の一部になったとしても、」

圧迫され、息が詰まる。 覗き込む青と赤の瞳は狂気と正気の狭間。
じわり、とまた力が込められる。

「俺たちは別々のものでなければならないんだ。」

気が狂いそうになるほどの孤独を、からからになり喉がはりつき干からびてしまいそうな渇きを、きっと俺たちは永遠に繰り返す。
込められた力が抜け、ぽたり、と静かに雫が落ちる。

「泣かないでくれ。俺は人の涙に弱いんだよ。」

そっと両手で頬を包む。その上から、添えられる硬く暖かな手。

「俺のために生きると言ってくれ、」

彼はとても繊細な人間だった。
俺はそういったものにめっぽう弱くて、彼のために生きていけたら、と願ったけれど。

「君は、残酷です。」

肩に彼の額が乗せられ、頬に柔らかな髪の感触。

「きっと、また、めぐりあいます。」

そっと、ささやかれた言葉に、目を閉じる。

彼はとても、寂しい人間だった。




水を汲んで、あなたにあげる

汲んだ端から零れ落ちたとしても

“何度だってあなたにあげる”


7/8 ニコチアナ 私は孤独が好き、孤独な愛