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そいつの笑い声は、ガハハ、と家中を駆け回るみたいに、大きく強く跳ねて。
そいつの泣き声は、それこそ、家が壊れるんじゃないかってくらい大きく空気を揺らして。

周りの人間を困らせては、笑って、笑って。
どんなところでも、どんなときでも、纏わりついて離れなくて。

成長して、すらりとした手足と、女受けのする甘い顔を手に入れても、涙もろいのは変わらずに、気付くといつだって涙目で膝をかかえていた。

俺のことをひどい人間だと言っては泣き、愛してると言っては、また、泣く。

あんまりずっと一緒にいたものだから、いなくなったことにすら気付けずにいたのだなんて。

「あのこはどこへいったのだろう。」

暗い部屋の中で、そっと、抱きしめた黒髪は、真っ直ぐ伸び。
呟かれた言葉に、つ、と眉をあげる。

「どうした?」

こちらを覗きこむ瞳も漆黒の色。
不安に揺れた緑をやっと思い出して、緩く首を振る。

「なんでも、ないよ。」

開かれた窓から、柔らかな風が吹き、軽くカーテンを押し上げる。

ひらり、と、軽く、軽く。

ゆるゆると伸ばした腕を掴み、鋭くこちらを見つめる漆黒の少年に笑う。

「なあ、どこへ行ってしまったんだろう。」

本当に困ったやつだけど。

鬱陶しいと思うばかりだったけれど。

臆病な子だったんだ。

本当に、臆病な子供。


大人になった俺の愛しい子。

大声で泣いて、大声で笑って。


どうぞ、しあわせに。


                          どうか、しあわせに。





7.7 エノテラ 新しい恋人、自由な心